『蘇軾 その詩と人生』(海江田万里著)の終章を読了しました。
政敵によって海南島送りにされ、そこで一生を終える覚悟でいた蘇軾ですが、何と哲宗が25歳の若さで死去することで状況は一変します。
哲宗の腹違いの弟、端王趙佶(たんおうちょうきつ)が徽宗(きそう)として即位し、哲宗の父である神宗の正妻、向氏が実権を握ります。彼女は、新法党と旧法党の和解を目指すような人事を行い、ここにおいて蘇軾にも恩赦が下されたのです。
こういうことが繰り返されるのを見ると、いくら有能であっても、昇進も左遷も権力中枢の情勢しだいという感が否めません。左遷や流刑の憂き目に遭いたくなければ、政治の風向きをうまく読んで自分の立場を調整することが必要です。それを「保身」と言うのですが。
蘇軾は、永州(現在の湖南省零陵県)への赴任が決まります。ですが、結局、永州にたどり着くことなく、その旅の途中でこの世を去ります。最後は、下痢がひどかったといいます。
彼は、その人生において幾度も左遷や事実上の流刑の不幸に遭いますが、それでも最後まで大切なことを見失わなかった人だと思います。
それは家族や友人との親密な関わりであり、自然を愛でる心であり、飲食の楽しみです。左遷や流刑の憂き目に遭わず、いくら世俗的な成功を収めても、それらを失っていたとしたら、その人生はきっとかなり味気のないものになるでしょう。
オタクはまた別なのかもしれませんが。
本書は、色々なエピソードや豆知識を交えながら蘇軾の一生が生き生きと記述されています。単行本で読みましたが、文字は大き目だし、細かいことには深入りしすぎず、大変読みやすかったです。おすすめします。