不定冠詞aが名詞の意味を決めるというネイティブの発想をわかりやすく解説

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マーク・ピーターセンの『日本人の英語』を読んでいます。

1~20のパートの内、2を読了しました。

2では、日本人の苦手な不定冠詞aの使い方が解説されています。

不定冠詞のaは、割と感覚的に付けがちですが、付け方を間違えると、大変な誤解を生みます。

例えば本書では、次のような例が挙げられています。

Last night, I ate a chicken in the backyard.

(マーク・ピーターセン『日本人の英語』(岩波新書)P10)

backyardは「裏庭」という意味なので、バーベキューをして「昨夜、裏庭でチキンを食べた」と読めそうですが、実は違います。

a chickenのaがあるため、「昨夜、裏庭でニワトリ一羽を捕まえてそのまま食べた」というヤバい意味にとれてしまうのです。

ありえないこともないですが、主語の「I」は相当ヤバい人になり、カーネル・サンダースもドン引きです。

バーベキューなど、牧歌的な風景にしたいのなら、正しくは、

Last night, I ate chicken in the backyard.

です。

著者は、日本の英文法書の「名詞にaを付けるか付けないか」という考え方に疑問を呈します。

むしろ「aに名詞を付ける」と考える方が現実的で、aこそが名詞の意味を決めるとします。

例えば、loveという語に定まった意味があるとまず考え、それにaを付けるかどうか決めるのは、日本人の発想です。

もし言おうとしていることが「恋人」であるなら、まずaが出てきて、それにloveを付けてa love(恋人)とするのが、「aに名詞を付ける」の発想です。

ではなぜ、まずaが出てくるのでしょうか?

それは、「恋人」が、共通単位性を持つグループの中の一つだからです。

本書では、「共通単位性」を以下のように説明します。

例えば, Singing a song of lost loveの"a song"の共通単位性は, 始めと終わりをもつ「歌うために作られた韻文」という, その「形」である. その始めと終わりが歌にあるからこそ, ons song, two songs,......と数えられる. a songに対して, songだけだったら, 決まった形のない「詩歌という芸術」あるいは「歌うこと自体」といった別の意味になる. つまり, songはa songと別の単語と考えてよい.

(同書P15)

これは、金太郎アメ(切っても切っても断面に金太郎の顔が現れる棒状のアメ)を想像すると理解しやすいです。

金太郎アメにはだいたい決まった形状と金太郎の顔があります。

そうしただいたい決まったフォームがあって初めて金太郎アメと呼ばれます。

そして切って粒になった金太郎アメは、1個、2個、3個と数えることができます。

だいたい決まったフォームがあって数えられるそのような感覚、それがaの感覚です。

「恋人」も金太郎アメの一つで、共通単位性があり、1人、2人、3人と指で数えることができます(どんなけ恋人おんね~ん)。

それが、「恋人」と言おうとするとき、まずaが出てくる理由です。

一方、loveには「愛」という意味もありますが、こちら意味では、金太郎アメ性がありません。

つまり、「愛」には決まった形がなく、どこかぼやっとしていて、つかみどころがありません。

だから、「愛」と言おうとするときには、そもそも最初からaは出てこないのです。

乱暴にまとめると、名詞の前にあるaというのは、「これから金太郎アメが一粒現れますよ」というしるしであり、予兆なのですね。

『日本人の英語』、ロングセラーだけあって得るものの多い一冊です。興味があれば読んでみてください。

つまみ読みの面白い文法書

著者のマーク・ピーターセン氏は、『表現のための実践ロイヤル英文法』という文法書にも共著者の一人として参加しています。

つまみ読みの面白い文法書です。

近年ノーベル賞候補としてメディアでたびたび名の挙がる小説家の村上春樹さんが、一時期設置された「村上さんのところ」という特設サイトで、推薦された過去もあります。

孫引きになりますが、こちらのサイトから引用します。「村上さんのところ」は読者の質問に村上春樹さんが回答するというもの。

★質問 仮定法現在と仮定法過去の使い分けができません。英語話者の人たちはどうやって区別しているのでしょうか? (コマさん、男性、16歳、学生)

 

★回答 仮定法の原理についてここで説明するわけにはいきません。申し訳ありませんが、ちょっと暇がないんです。『表現のための実践ロイヤル英文法』(綿貫陽、マーク・ピーターセン著・旺文社)は優れた本です(無人島に持っていってもいいくらいです)。これを読むと仮定法の細かいニュアンスが理解できると思いますよ。読んで理解してください。仮定法はとても大事です。しっかりマスターしてくださいね。村上春樹拝