the USAになぜtheが付くのか?~theの知られざる意味に近づく~

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英語学習書の名著として知られるマーク・ピーターセンの『日本人の英語』を読んでいます。

1~20の文章に分かれているのですが、まずは1を読了しました。

1はプロローグ的なもので、ゴリゴリの英語の解説にはまだ入りませんが、それでも面白く、得るものがありました。

著者は、日本の一般的な英文法書の解説にやんわりと疑問を呈します。

その例として挙げるのが、the United States of America(the U.S.A)の解説です。

ご存じのように、「アメリカ合衆国」という意味ですが、著者は、そのtheの必要性や意味についての説明がなく、ただ次のように解説されるだけだと述べます。

「定冠詞は次のような名詞につける‥‥‥特定の国名:the United States of America, the Netherlandsなど. ただし, Japan, Canadaはつけない」

(マーク・ピーターセン『日本人の英語』(岩波新書)P6)

そう、United States of Americaにはtheが付くのに、Japanには付かないというのは疑問、というか煩わしいですよね。

国名にはすべてtheを付ける、というような統一性がないと、えっと、じゃあエチオピアにはtheはいるのかな、という風にいちいち考え込むことになります。

もちろん、theってギョーザの羽根みたいでカッコいい、Japanにも付けてほしい、と思う方もいるでしょう。

が、著者は、U.S.Aにtheが付く理由を次のように解説します。

本当はU.S.Aにtheがつくのは固有名詞だから, あるいは国名だからではなく, 普通名詞のstatesがあるからである. The Mississippi Riverも同じである. 川の名前だからではなく, 普通名詞のriverがあるからtheがつくのである.

(同書同ページ)

どうでしょう、これで納得できたでしょうか。

納得できたのならいいのですが、僕は残念ながら少し考えてしまいました。

どうして普通名詞だとtheが付くのだろう、と。上の引用文には以下の説明が続いています。

この二つの例は, 厳密にいえば, それぞれthe states which are united/the river named Mississippiという論理に従ったtheの使い方である.

これらの説明を何度か読み、しばらく考え、次のように解釈することで腑に落とすことができました。

ポイントはtheの表す「唯一無二」性です。

theにはオンリーワンの性質を表す役割があります。

例えば、月というのはこの世に一つしかなく、月と言えばあの「月」しかありません。だからmoonには、基本的に、theが付きます。

「地球」という意味のearthも同様です。

一方、riverというのは唯一無二ではありません。

ミシシッピ川、淀川、多摩川、ナイル川など、世界には様々な川があります。

しかし、river named Mississippiになると、唯一無二、オンリーワンの川に変身します。

ミシシッピという名前の川は、世界に一つしかありません。(もちろん世界のどこかに同じ名前の川があるかもしれませんが、アメリカ人の常識として実質唯一つと考えてもよさそうです)

そこでその唯一無二性を表すために、Mississippi Riverにtheが付き、The Mississippi Riverとなるのです。

一方、Japanはその言葉自体で唯一無二であることが明白ですから、わざわざtheを付ける必要がないということになります。

もしかしたら間違った解釈かもしれませんが、ひとまずこうした理屈で納得することができました。

USAのthe問題ではややつまずきましたが、この本は名著と言われるだけあり、確かに面白いです。

ちなみに初版が1988年ですから、相当なロングセラーですね。

つまみ読みの面白い文法書

著者のマーク・ピーターセン氏は、『表現のための実践ロイヤル英文法』という文法書にも共著者の一人として参加しています。

つまみ読みの面白い文法書です。

近年ノーベル賞候補としてメディアでたびたび名の挙がる小説家の村上春樹さんが、一時期設置された「村上さんのところ」という特設サイトで、推薦された過去もあります。

孫引きになりますが、こちらのサイトから引用します。「村上さんのところ」は読者の質問に村上春樹さんが回答するというもの。

★質問 仮定法現在と仮定法過去の使い分けができません。英語話者の人たちはどうやって区別しているのでしょうか? (コマさん、男性、16歳、学生)

 

★回答 仮定法の原理についてここで説明するわけにはいきません。申し訳ありませんが、ちょっと暇がないんです。『表現のための実践ロイヤル英文法』(綿貫陽、マーク・ピーターセン著・旺文社)は優れた本です(無人島に持っていってもいいくらいです)。これを読むと仮定法の細かいニュアンスが理解できると思いますよ。読んで理解してください。仮定法はとても大事です。しっかりマスターしてくださいね。村上春樹拝