マーク・ピーターセンの『日本人の英語』、パート20のうちの10を読み終わりました。
パート10は、日本語の「~の」にあたる英語表現についてです。主にofを中心に書かれています。個人的には、ofとその他の言い方との違いに関する部分が面白かったです。
例えば、「~の」の意味を表せる英語表現は、「A of B」、「A's」、「AB」があります。これらの違いについて、パート10では解説されています。
具体的な例として, 「上野動物園のパンダ」という表現をどうやって英語に直せばよいかを簡単に考えてみよう.
つまり,
the pandas of Ueno Zooか,
Ueno Zoo's pandasか, それとも,
Ueno Zoo pandasか,
どれにすればよいかという問題である.
(マーク・ピーターセン『日本人の英語』(岩波新書)P85)
いずれも日本語に訳せば、「上野動物園のパンダ」となりますが、英語の方はそれぞれニュアンスが異なります。
本書によれば、Ueno Zoo's pandasの、「A’s」の言い方は、Aによる所有感が強く出るとします。
その意味合いを出すために、あえて大仰に訳せば、「上野動物園の所有するパンダ」となりますね。
一方、Ueno Zoo pandasは、その性質が強調される言い方です。他のパンダとは違う、上野動物園のパンダらしさを匂わせます。
面白いのは、本書ではこれに類する日本語の例として「商社マン」という言い方が挙げられているところです。一般的に「商社マン」という表現は、単に「商社で働いている人」を示すのではなく、「商社で働いている人」にありがちな性質を強調したい場合に使われます。
だから、Ueno Zoo pandasを「商社マン」的にあえて訳せば、「上野動物園パンダ」ですね。
最後にthe pandas of Ueno Zooですが、こちらは上の2つの言い方の中間にあたるような、いわば中立的な表現だとのこと。
と、確かにわかりやすく、これはこれで面白い解説なのですが、例えば「A's」はいつでも所有感を表す、ということではなさそうです。
『表現のための実践ロイヤル英文法』には次のようにあります。
英語圏でも, 一昔前までは「所有格」を表す用語としてthe possessive caseという言い方がよく使われていたが, この言い方だと, possess(所有する)との連想が強いだけに, 「〈’s〉は, 人間や動物, つまり実際何かを所有できるものにしか使えない」という誤解を招きかねない。それを避けるために, the possessive caseの代わりにthe genitive caseという用語を使うのがふつうになっている。
(『表現のための実践ロイヤル英文法』(旺文社)P353)
実際、この説明の後に、無生物に〈’s〉が付いた例がいくつも挙げられています。いくつか抜粋すると、以下のような表現です。
the earth's orbit(地球の軌道)
China's attitude(中国の態度)
today's paper(今日の新聞)
my life's aim(わが人生の目的)
the earth's orbitを「地球の所有する軌道」と訳すのはやや無理がありますね。「地球」が「この通り道はオレのもの。ほかの星は通るな」とか、そんなこと考えているでしょうか。たぶん考えていないと思います。
『日本人の英語』に書かれていることが絶対的、普遍的に通用するわけではないですが(解説が悪いのではなく言葉とはそういうもの)、一読の価値のある1冊だと思います。
パート10では他に、明治大学をUniversity of Meijiと英語に訳すおかしさについても書かれています。the University of Californiaなら問題ないのに、なぜUniversity of Meijiはだめなのでしょうか。原因はtheではないのですが、気になる方は『日本人の英語』でお楽しみください。