冠詞のaとtheの使い方で意味に思わぬ違いが生じる理由をわかりやすく解説

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マーク・ピーターセンの『日本人の英語』を読んでいます。1~20のパートの内、3を読了しました。

2では不定冠詞のaがテーマでしたが、3では定冠詞のtheが取り上げられています。

theの意味は「その」

theの使い方を身に付けるには、まずそれが日本語の「その」に相当する語であることを理解する必要があります。

例えば、昔話で「むかしむかし、ある山にあるおじいさんが住んでいました」という出だしがあるとすると、この一文にある2つの「ある」は英語でいえば不定冠詞のaです。

読者にとっては、その山やおじいさんはまだ未知であるはずですから、「ある」を使います。

もしこの出だしが、「むかしむかし、その山にそのおじいさんが住んでいました」だとすると、読者はおそらく「どの山のどのおじいさんやねん!?!」とツッコミたくなるでしょう。

こうした例として本書では、日本の英字新聞に掲載されていたその社会科学者、じゃなくて、ある社会科学者のエッセイの冒頭を紹介します。

それが以下です。

The international understanding is a commonly important problem in both the West and Japan.

(マーク・ピーターセン『日本人の英語』(岩波新書)P21)

著者(マーク・ピーターセン)は、この一文を「英語として冒頭センテンスの与える印象は支離滅裂である」とします。

そして、そのエッセイが言おうとしていることを推測して、次のように訂正します。

International understanding is an issue of wide importance to both Japan and the West. (国際理解は日本にとっても西洋にとってもさまざまな面で重要な問題である.)

この訂正後の文を見れば、訂正前のThe international understandingのTheは「その山そのおじいさん」の間違いであることは想像がつくと思います。

エッセイの冒頭の一文であるにもかかわらず、いきなりThe international understandingで始まると、読者は「What!?!」と聞かずにはいられない、とマーク・ピーターセン氏はいいます。

つまり、「どの山のどのおじいさんやねん!?!」のときと同じような気持ちですね。

木と月で理解するaとtheの違い

ここまではtheのキホンのキですが、本書では次にaとtheの使い分けについて解説します。

その中で、著者は次の例文を紹介します。

それは、

Japanese arranged marriage has recently become a subject of wide interest in the United States.(日本のお見合いは, 最近, アメリカで一般的に興味深く思われる話題となっている. )

(同書P24)

と、

Japanese arranged marriage has recently become the subject of wide interest in the United States. (日本のお見合いは, 最近, アメリカで一般的な注目のまととなっている.)

ですが、a subjectだと「話題」になり、the subjectだと「注目のまと」になるのがポイントです。

もちろん、aとtheがこのような意味の違いを作り出しているのですが、本書ではaとtheについて次のように説明します。

一度名詞がaのカテゴリーに入れられたら, あるグループの中の一つにすぎない存在となる. 一度theのカテゴリーに入れられたら, ある唯一の, 特定のアイデンティティーをもっている存在となる.

(同書P25)

やや抽象的で一読しただけでは飲み込みにくいかもしれませんが、これは木と月のイメージを持つと理解しやすいと思います。

aの感覚は木

まずは、木のaです。

森などに生えている木は、だいたい決まった形状があり、1本2本3本と数えることができます。

そして、この世界から1本の木が燃えてなくなってしまっても、基本的には他の木を代用できます。

つまり、それぞれの木はたくさんある木のうちの1本にすぎません。

そのいくつもある木のうちの1本の感覚が、aの感覚です。

英語でいえばone of themの感覚ですね。

この感覚に基づいて、上記のa subjectの文を読むと、a subjectいくつもある話題のうちのひとつにすぎないことが理解できます。

theの感覚は月

次は、月のtheです。

月の場合は木と違い、似たようなフォームを持った、同じ月と呼ばれるものが、この世に1個2個3個といくつも存在しません。

空に浮かぶ「あの月」がなくなったからといって、じゃあ代わりに「あっちの月」で和歌を詠むか、なんてことはできません。

このような、世界でただ一つしかないものには、基本的に、theが付きます。

「あるおじいさん」は「どのおじいさん」かわかりませんから「あるおじいさん」になります。

ところが、月といえば「あの月」しかないので、theとセットになっていて問題がないのです。

月などにあるそうした世界でただ一つの感覚、それがtheの感覚です。

日本語の四字熟語を使えば、唯一無二(ゆいいつむに)の感覚ですね。

この感覚に基づくと、上記のthe subjectが「注目のまと」と訳される理由がわかると思います。

いくつもある世間の関心事の一つにすぎないなら、それは、「注目のまと」とは言えず、「話題」の一つにすぎません。

月の感覚があるからこそ、subejectにtheが付くのであり、それは唯一の感覚のある「注目のまと」と理解されるのです。

『日本人の英語』、英語の本質的なところが解説されており、身に沁みます。興味があればご一読ください。

つまみ読みの面白い文法書

著者のマーク・ピーターセン氏は、『表現のための実践ロイヤル英文法』という文法書にも共著者の一人として参加しています。

つまみ読みの面白い文法書です。

近年ノーベル賞候補としてメディアでたびたび名の挙がる小説家の村上春樹さんが、一時期設置された「村上さんのところ」という特設サイトで、推薦された過去もあります。

孫引きになりますが、こちらのサイトから引用します。「村上さんのところ」は読者の質問に村上春樹さんが回答するというもの。

★質問 仮定法現在と仮定法過去の使い分けができません。英語話者の人たちはどうやって区別しているのでしょうか? (コマさん、男性、16歳、学生)

 

★回答 仮定法の原理についてここで説明するわけにはいきません。申し訳ありませんが、ちょっと暇がないんです。『表現のための実践ロイヤル英文法』(綿貫陽、マーク・ピーターセン著・旺文社)は優れた本です(無人島に持っていってもいいくらいです)。これを読むと仮定法の細かいニュアンスが理解できると思いますよ。読んで理解してください。仮定法はとても大事です。しっかりマスターしてくださいね。村上春樹拝