社会人が英語を勉強して人生一発逆転したいなら単語帳『ターゲット1900』がおすすめ

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先日、一冊の英語の単語帳を買いました。

その名も『英単語ターゲット1900』というヤツです。大学受験生向けのものの中でも最も有名な単語帳の一冊(と、one of the most風に言ってみる)。いい年をして高校生向けのものを買うのはちょっと恥ずかしかったです。30を過ぎた女優が制服を着て女子高生を演じるときもこのような気分なのかもしれません。年増の男女が高校の制服を着て腕のあたりがピチピチで窮屈に感じたり、ボタンが吹っ飛んだりするのが制服の場合の「あるある」だとすれば、老眼で文字が見えずらいというのが書籍の場合の「あるある」でしょう。幸い、まだ老眼ではないので、読むことに支障はないです。

ないけれども、電車内で『英単語ターゲット1900』を読むというのは、メンタル的にやや抵抗があります。男たるものターゲットなぞは高校時代にマスターをして良い大学に入り、卒業後は良い会社に就職して、良い給料を得て、今頃はトヨタのレクサスにでも乗ってイオンに行き、家族のためにお惣菜でも選んでいるべきものです。そして家に帰ると娘がターゲットで勉強をしていて、こちらは買ってきたものを冷蔵庫にしまったりしながら、「お、ターゲットか。懐かしいなあ。お父さんも高校時代はターゲットを使って頑張って勉強したものだよ」と語りかけ、使い込んだターゲットがいかにボロボロになったかを熱心にアピールし、娘から「ふーん」とやや冷たくあしらわれながら、夕飯の支度へと取り掛かっていくのです。

というのがあるべき姿であるとすると、その「お父さん」に当たっていてもよい現実の自分が電車内でターゲットを読むというのは少し気が引けます。現役の高校生に「ぷぷぷっ、あのおっさんターゲット読んでる。英語で人生一発逆転しようなんて考えてるんだろうな。イタいな。ああいう大人にはなりたくないな」などと思われる可能性もなくはないはず。仮にもしそういうようなことを『システム英単語』を手にした高校生に面と向かって言われようものなら、手にしたターゲットを床に叩きつけて、「おいおい、言ってくれるな高校生。じゃあれか、君は今、乳ボーロを食べないわけか?ねるねるねーるねは?ポイフル?君は小さい頃お世話になったあらゆるものと縁を切ったわけか?違うだろう、時にはそういうものがまた恋しくなって手にしたくなるときもあるじゃないか。それをなんだね君「イタい」とは、冗談もほどほどにせぃっっ。ところでシステム英単語は使いやすい?」などと啖呵を切ってしまう可能性も否定できないです。

とはいえ、実は単語を暗記するためにターゲットを買ったのではないのです。単語を暗記するために単語帳を買ったのではないというのは、まつ毛をボリューミーに見せるために付けまつ毛を買ったのはではないというのと同じく、奇怪に聞こえるかもしれません。しかし、単語帳は付けまつ毛と違い、もう少し多様な使い方ができます。実は、ターゲットを買ったのは、その例文が使えると思ったからです。要はターゲットの例文を買ったわけです。単語帳を掲載単語を見て買うのは面食い、例文を見て買うのはその心を好むということ。巷に出回る単語帳の単語はだいたい知っているというレベルに達すると、このような境地に立つことができます。

「そなたはお世辞にも美人とはいえない。しかし私はそなたの心が気に入った。どうだ、私に付いて来る気はないか」

「はっ、そのようなことをおっしゃられたのはあなた様が初めてでございます。そのお言葉が本当であるなら、まことうれしゅうございます。わたくしのようなものでも構いませぬのなら、ぜひともお供させてくださいまし」

「ならばそなたを連れてまいろうぞ、乗れいっ」

「きゃっ」

パカパッパカパッパカパッパカパッ・・・(馬の足音)

というのが、市内のある大型書店でターゲットを買うに至った次第です。こうして我々が受験参考書コーナーで運命の邂逅を果たしているその隣では、受験参考書を介した高校生カップルのイチャイチャとしたしめやかな語らいが繰り広げられていましたが、彼らの出会いも我々の出会いほど情熱的なものではなかったことでしょう。我々の出会いはいわば高祖劉邦が張良を得、劉備玄徳が諸葛孔明を得たようなものでした。それほど劇的なものだったのです。

さてその例文ですが、まず簡潔である点が評価できます。一般的に言ってデキるヤツほど簡潔です。能力のない人間の話ほど長く取り留めがなく、何を言っているのかよくわかりません。「すべき」から始まり、「ですが→ただ→そうは言っても→しかしながら→また→実のところ→一方で→いわば→なので」のようにくねくねと話が色々なところに向かい、最終的に「すべきではない」などと最初の主張と正反対のことを平気で言ってのけます。そういうヤツはたい焼きも、しっぽから食べたかと思うと次に頭をかじり、頭をかじったかと思うとお腹に食らいつくような意味不明な食べ方をするのでしょう。ボーリングだってくるんっと変なひねりをかけて、まっすぐ素直に転がさないだろうと思います。

一方、天才軍師諸葛孔明は簡潔でした。孔明は、三顧の礼で彼のもとを訪れた劉備に対し、簡潔にして要を得た天下三分の計というものを授けました。凡人は木に囚われて森を見失いがちですが、孔明は森の重要性を理解しています。森を見据えた彼の言葉は簡潔で、一本筋が通っていました。以後、劉備は孔明のことを「森さん」と呼ぶようになったとか、ならなかったとかいいます。

ターゲットの例文は、孔明の天下三分の計の如く簡潔ですっきりしています。しかもその簡潔にして短い例文から主役となっている単語だけでなく、その他の実用的な表現も習得できます。例えば、

She accused me of having spread rumors about her father.

彼女は自分の父親に関するうわさを広めたことで私を非難した。

(『英単語ターゲット1900 6訂版』P306 accuseの項目)

という例文では、主役のaccuseという単語はもとより、accuse A of B(AをBのことで非難する)というその典型的な使い方、おまけとしてspread rumors(うわさを広める)という入試や日常会話で頻出の表現も知ることができます。

そして重要なのは、例文が短いがゆえに暗唱も難しくないという点です。いくら実用的でありがたい仏教の教えもトルストイの『戦争と平和』のごとく長大なものとなれば、それは実質役に立たないと言ってもよいでしょう。いくら筋が通っていても天下千分の計ということになれば、劉備も孔明のもとを去っていたはずです。複数の有用な表現が一つの例文から学べ、一つ一つの文が短いがゆえに暗唱もしやすく、それゆえ作文や読解にも大いに活かすことができる、というのがターゲットの例文なのです。

実は、英検の作文対策をいかにしたものかと考えていた中でたまたまターゲットを手にし、その例文を見て「これは使える!」と直感したのでした。今後はしばらくターゲットの例文暗唱に精を出す予定です。ちなみに単語や例文の音声はアプリで聴くことができます。ごちゃごちゃした単語帳は嫌い、という方にはターゲットはあなたに良い印象を与えてくれるでしょう。