『蘇軾 その詩と人生』(海江田万里著)の第4章を読んだ感想~黄州で何もない台所に立つクッキングパパ蘇軾~

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『蘇軾 その詩と人生』(海江田万里著)の第4章を読了しました。

蘇軾の黄州(現在の湖北省黄岡県)での左遷生活について記述されています。水部員外郎という肩書で、給料はほんのわずか。実態は流刑の身です。三男七女と二人の女婿という大家族なので、当然苦しい生活を強いられることになります。

秦太虚(しんたいきょ)という友人に宛てた手紙の中では「今の手持ちのお金で一年はもちますが、金がなくなれば、そのときのことです」(P122)と書いてます。

蘇軾が考案したとされる豚の角煮の東坡肉(トンポーロー)も、この黄州での左遷生活の時に誕生します。本書で初めて知りましたが、彼はこの東坡肉以外にも、東坡湯(トンポータン)と呼ばれる野菜スープも考案しているのですね。「白菜を中心に大根やなずなを煮込んだスープ」(P126)とあります。

蘇軾はこの地で畑を作って野菜を育て、半ば農民のような生活を送ります。本人にとっては災難ですが、外から見る分には「田舎生活」といった風情で、やや心惹かれます。

春になって水嵩(みずかさ)の増した長江は家の戸口まで入ってきそうだ

雨が降り続いて止まない

私の住む小さな家は漁船のようだ

濛々(もうもう)と立ち込める霧の中にある

何もない台所で粗末な野菜を煮る

本書(P130)に掲載された『寒食雨』という詩の一部(日本語訳)です(フリガナは一部省略)。

「何もない台所で粗末な野菜を煮る」という部分がいいですね。「何もない台所」という状況が「粗末な野菜」を引き立てて、その「粗末な野菜」がむしろ貴重なご馳走のように感じられます。実際、生活に余裕はないので、ご馳走だったでしょう。

本章で紹介される黄州での蘇軾の生活についても、「何もない台所の粗末な野菜」と同じで、俗事という雑音が少ない分、蘇軾という人間がより引き立ち、魅力的に感じられます。

「わしを「粗末な野菜」と同じにすな」という蘇軾先生の声が聴こえてきますが。

彼の人生を知れば、その詩もより味わい深くなります。一度読んでみてください。