『源氏物語』読書マラソン7〜源氏物語の情緒性を引き立てる弘徽殿のスパイシーなツッコミ〜

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『源氏物語』読書マラソン7。

大塚ひかり訳『源氏物語』のP29〜30まで読み進めました。前回の続きとして紹介記事を書いていきます。

ではどうぞ。

 

桐壺更衣(きりつぼこうい)が亡くなり、ミカドは悲しみに暮れる日々を送ります。他の妃たちと寝ることもなく涙に暮れ、周りにいる人まで湿っぽくなる秋のことです。

 「はぁ〜、源氏物語というのは、なんとはかなく美しく、そして優しい物語なのだろう・・・」

と、読者が源氏物語的情緒に酔いしれ始めたまさにその時、かの女御(にょうご)の口から歯に衣着せぬ衝撃の一言が。

「死んでまで、人を不快にさせるご寵愛ぶりね」

あの可憐な桐壺更衣でさえあの世で「死んでまで、人を不快にさせる憎しみぶりね」と反撃していそうな、辛辣な恨み言です。 

「かの女御」というのは、子供のできた桐壺更衣に対するミカドの寵愛ぶりをみて「へたをすると東宮にも、この皇子がお立ちになるのでは(P20)」とぼやいていた、事実上の皇位継承予定の皇子を持つ女御のこと。

『源氏物語』のチェリンこと弘徽殿女御(こきでんのにょうご)の本格的なお出ましです。

 ※チェリン・・・『冬のソナタ』でミニョン氏のガールフレンドだった子。勝気で、腹黒い。

弘徽殿女御は、チェリンのように、「桐壺は、唐衣(からぎぬ)とか恋人とか、私が好きなものをいつも真似るの・・・」的なデタラメをミカドに吹き込んでいたかもしれないですし、桐壺更衣が通る廊下の汚物もあるいは彼女の仕業だったのかもしれません。

率直に言って、「感じ悪い」弘徽殿女御ですが、視点を変えると、彼女がいるからこそ、『源氏物語』の情緒性が引き立つと見ることもできます。

会いたい」とか「可哀想に」といった甘ったるい世界感に弘徽殿女御が非ロマンチックかつ冷徹なツッコミを入れることで、物語の情緒性が際立つのです。

もし、彼女のような辛口な存在がいなければ、尾崎豊の『I LOVE YOU』をリピートしながらイチゴなしのショートケーキをひたすら食べ続けるような物語になっていたはずです。 

それにしても、大恋愛が原因で、周りの人間たちまで次から次へと湿っぽく、不幸な感じになっていく点でも冬ソナと共通していますね。

大恋愛は世界を不幸にするのでしょうか? 

 

読み進めているのは、古典エッセイストの大塚ひかりさんが訳された『源氏物語』です。いくつもある源氏物語の日本語訳の中でも特に現代的な訳で、かなり読みやすいのでおすすめ。