『源氏物語』読書マラソン2。
大塚ひかり訳『源氏物語』のP19〜21まで読み進めました。前回の続きとして紹介記事を書いていきます。
ではどうぞ。
それだけミカドに愛されれば、子ができても不思議ではありません。
今回は、ミカドの愛を一身に受ける更衣(こうい)の子が誕生したことが語られます。そして、この子がまさしく『源氏物語』の主人公「光源氏(ひかるげんじ)」なのです。
『源氏物語』のウケるチェックポイントの一つは、光源氏の描写です。それは、北朝鮮メディアの無慈悲なまでに理想化された指導者に関する無欠描写を彷彿(ほうふつ)とさせるような、うさんくさい描写です。
光源氏の誕生時から、さっそく始まります。
前世でも二人のご縁は深かったのか、世にまたとなく清らかに美しい玉のような皇子(みこ)までお生まれになりました。
実態はかなりブス、という可能性も否定はできません。
ミカドは「早く会いたい」と待ち遠しがられ、急ぎ参内させてご覧になると、かつて見たこともないほど美しい顔だちの男の子です。
実の父であるこのミカドの「会いたい病」を引き継いだのか、その子である光源氏も今後、「(多くの女性に)会いたい」の人生を歩んでいきます。一部の女性読者にドン引きされるゆえんです。
一の皇子(みこ)は右大臣の女御からお生まれになって、後ろ盾も重く、紛れもない皇位継承者として世間からも大事にかしずかれていらっしゃいましたが、この皇子の“御にほひ”・・・あたりに広がるようなオーラ・・・には、肩を並べることもできないのでした。
人物描写に「オーラ」という言葉が出てくることにより、北朝鮮感がより増してくるわけですが、ここでチェックしておきたい点がひとつ。
それは、すでにミカドには事実上の皇位継承予定の皇子がいるということ。
溺愛する更衣の生んだ光源氏と皇位継承予定の皇子の違いは以下になります。
・光源氏・・・父はミカド、母は更衣、母方祖父は大納言(すでに他界)、母方祖母は旧家出身の教養のある人。
・皇位継承予定の皇子・・・父はミカド、母は女御(更衣より上位)、母方祖父は右大臣(大納言より上位)。
母は女御より下位の更衣だし、大納言であった祖父もすでに他界しているなど、光源氏の後ろ盾は心もとないです。強みは、母更衣がミカドに溺愛されていること。
ここから何やら不穏な雲が立ち込めてきます。
子が誕生したことにより、ミカドの更衣に対する扱いもより格別なものになっていきます。
すでに皇位継承皇子を持ち、後ろ盾もしっかりしたかの女御にもある疑いが生じてくるのです。
「へたをすると東宮にも、この皇子がお立ちになるのでは」、と。
平凡な恋愛小説であれば、女御の恋愛的嫉妬が激化するのが普通ですが、『源氏物語』は違います。
普通の恋愛小説が、
「あの女め、更衣のぶんざいでわたくしからミカドの愛を奪うとは。許せない。ミカドはわたくしのものであるぞ!きぃぃーーーーっ!!!」
となりそうなところ、
「へたをすると東宮にも、この皇子がお立ちになるのでは」
です。
ベタベタ情緒にしれっと権力闘争を挿し込んだりして、脳内お花畑の恋愛小説読者の空気を読まないところが『源氏物語』の油断できない点の一つです。
読み進めているのは、古典エッセイストの大塚ひかりさんが訳された『源氏物語』です。いくつもある源氏物語の日本語訳の中でも特に現代的な訳で、かなり読みやすいのでおすすめ。