中国の四大名著の一つ『水滸伝』の訳のおすすめは?

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中国四大名著の一つ、『水滸伝』を読みました。

「水滸伝」というのは「水のほとりの物語」という意味で、残りの三名著は『三国志演義』、『西遊記』、『紅楼夢』とされています。

いきなり全訳を読みこなす自信はなかったので、比較的評判の良い岩波少年文庫の抄訳バージョンを読みました。抄訳でも、上、中、下、の3冊になります。

水滸伝 上 (岩波少年文庫 541)

水滸伝 上 (岩波少年文庫 541)

 

この小説は、実は一人の作者が一から創作した、というものではなくて、もともと講談として庶民の間に流布していた様々なエピソードがまとめられたものです。

水滸伝は水滸伝でもいくつかバージョンがあるようです。

(・・・)「水滸伝」のテキストはたくさんあって、その中でわが国でも一番よく読まれているのは七十回本です。しかしじつはこれは「水滸伝」を途中でチョン切り、かなりむりして結末をつけ加えたもので、話としてはどうしても中途半端な感じをまぬがれません。それでわたしは一等完備したテキストである百二十回本に拠りました。

 しかし、百二十回本を日本語に訳しますと(今までのところまだ完訳はありません)、四百字詰の原稿用紙で五千枚以上になるでしょう。わたしの本はそれを五分の一くらいにちぢめたものです。しかしそのために「水滸伝」の面白さが五分の一にちぢまってしまっては困ります。およそ小説の筋書ほどつまらぬものはありません。わたしはこの本がただの筋書に終わらぬようにと、一生けんめいにつとめたつもりです。 

(本書のはしがきより)

また同じくはしがきにもありますが、少年向といっても翻訳編集にあたって手加減はなく、 大人でも読める水準になっています。

水滸伝は、一言でいえば、役人への賄賂でどうにでもなる不正のはびこる社会で、いくつかの不運が重なって止むを得ずお尋ね者になった豪傑たちが、梁山泊(りょうざんぱく)という場所を拠点に活躍する物語。

内容は、いち現代日本人の目から見ると、相当エゲツなく、ドン引きの連続です。おそらく『高慢と偏見』に出てくるような育ちの良い紳士や貴婦人が、しかめつらと軽蔑の心でもって、そっと距離を置くタイプの小説。人けのない場所で人肉まんじゅうを提供する居酒屋シーンなんて、ベネット夫人が読んだら卒倒するでしょう。

ツッコミどころも満載で、「弱きを助け強きをくじく豪傑たち」とよく言われるように、確かに梁山泊の豪傑たちが、強きである「曲がったヤツら」をボコボコにするわけですが、その過程で弱き「庶民」めっちゃボコボコにしてるし。(ちなみに「ボコボコ」は控えめな表現にしたものです)

「弱きを助け強きをくじく」豪傑たちは、よく言えば、賄賂でどうにでも動いてしまう役に立たないお国側の警察に対する、ボランティア警察、民間警察みたいなものです。ただ、比喩的に言うと、悪いヤツらをパトカーで追いかける過程で、罪のない庶民を次々と轢いていきます。 

でも間違いなくこうした「ドン引き」要素こそが『水滸伝』という小説を格別に面白いものにしているんですよね。それは読んでみるとすぐにわかると思います。

なお、より本格的な水滸伝を読みたい方は井波律子さんの訳がおすすめです。

水滸伝 (一) (講談社学術文庫)

水滸伝 (一) (講談社学術文庫)

 

一冊あたり600ページから700ページほどあり、全部で5巻あります。以下はリンク先の「内容紹介」より。

この魅力満載の世界を躍動感あふれる世界を、よみやすく、勢いのある文体で、新訳しました。「水滸伝」の完訳書はいくつかありますが、この翻訳が最新・最高です。 本書原本はもっとも原形に近く、均整の取れた百回本。