村上春樹のエッセイ『やがて哀しき外国語』の感想。

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本の紹介です。

村上春樹氏の『やがて哀しき外国語』。

著者の数年間に渡るアメリカ滞在生活をもとにして書かれたエッセイです(当時40代)。当時彼は、アメリカの大学に客員研究員として在籍していました。1991年からなので、ちょうど日本のバブル経済がはじけた頃ですね。

アメリカ滞在生活から生まれた作品ですから、当たり前かもしれませんが、アメリカ臭いです。アメリカ嫌いの人が読んだら深刻なアレルギー反応を起こして、「だからアメリカは・・・」みたいな妄言症状のようなものがボロボロ出てくるかもしれません。

なにしろカタカナが多い。本書のカタカナを全部アルファベットにすると、ルー大柴の著作かとオモッテシマイソウナクライ。アメリカの地名やアメリカ人の名前(あるいはその他の固有名詞)を漢字に直す訳にもいかないので、ある程度仕方のないことですが。

それはいいとして、やっぱり村上さんはアメリカ(文化)が好きなのか、それとも母国のしがらみから離れた外国生活ゆえにか、文章から、どこか伸び伸びとしていて、自由で、楽しそうな気分がよく伝わってきます。けっこう前に書かれたものなのに、つい最近の出来事が描かれているよう。著者のエッセイの中でも特に生き生きとしている印象。

話題は多岐にわたり、外国語で外国人に自分の気持ち正確に伝えるコツ、米国に滞在する権威主義的な日本人エリートの話、著者の外国語学習歴や、小説家になった経緯、異国での散髪の悩み、物書き志望のアメリカ人学生に送ったアドバイス等々、読みごたえがあります。

ずっと読んでると、ホームシックになって、味噌汁飲みたくなるけど。

でもその黒人の運転手が僕に向かって、「なああんた、ここの国では俺たちはみんなほんとうに犬のように扱われるんだよ、オー・ヤー」と静かな声で言ったとき、マイルスの本を読んだときに感じたのとはまた違ったある種の思いが、その静けさとともに伝わってきたように思う。声高にプロパガンダをする人はもちろん別だけれど、普通の黒人はなかなか僕なんかに向かってこういうことは言わない。

(本書(文庫版)P130より)

やがて哀しき外国語 (講談社文庫)

やがて哀しき外国語 (講談社文庫)