中国の豚肉価格の高騰から米中貿易戦争という危うい思考回路。中国における豚に関する誤解は怖い。

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中国で豚肉価格が高騰している。前年同期比では、小売価格で約47%、卸売価格では2倍の高騰である。中国の消費者がほぼ確実に実感できるほどの上昇率だ。

この価格高騰の主な原因は、アフリカ豚コレラによるものである。しかし、中国政府はこれが米中貿易摩擦と関連付けられることを警戒しているようだ。

中国における豚に関する誤解は怖い。物語ではあるが、『三国志演義』に次ぎのようなエピソードがある。

暴君董卓(とうたく)の暗殺に失敗した曹操(そうそう)は、仲間の陳宮(ちんきゅう)とともに、父の義兄弟である呂伯奢(りょはくしゃ)の家に一晩泊めてもらうことにした。呂伯奢は二人のために西の村へ酒を買いに出かけた。すると、屋敷の裏で刀を研ぐ音がし、「縛って殺したらどうだ」という声がする。お尋ね者の自分を殺す気だと解した曹操は、陳宮とともに外へ飛び出し、そこにいた一家八人、男女ともども殺してしまった。

が、これは曹操の誤解で、実際は、二人のために豚をさばこうとしていただけだった。

もし曹操が光源氏だったら、悔恨で涙を流し、和歌でも詠んでいるところだが、曹操とやや光源氏気味の陳宮はそそくさと馬に乗り屋敷を出発する。そして二人の酒を買って戻って来た呂伯奢に出くわすと、後に面倒なことになるだろうと考え、曹操は彼をも斬り殺してしまう。

曹操の悪辣さ示すエピソードとしてよく取り上げられるものだが、豚にとっては曹操は命の恩人だろう。

が、今回も豚が命拾いするとは限らない。

豚肉の価格高騰が進むにつれ、国民の不満が高まれば、政府も批判をかわす努力をするだろう。「批判をかわす」というのは、日本であればそもそも問題は存在せず、ゆえに責任者もいないことにすることだが、中国では特定の誰かに罪と罰を負わせることである。

そもそも豚の存在が悪いということになって、中国全土で豚の大量粛清ということになるかもしれない。『西遊記』の猪八戒も、ボコボコにされるだろう。

中国は歴史上、対内問題と対外問題のどちらの解決を優先するか、ということがよく問題になる。前者は内患(ネイフォアン)、後者は外患(ワイフォアン)と呼ばれる。豚肉価格の高騰がさらに深刻化すれば、外患がトランプ政権との貿易摩擦問題なら、内患は豚肉問題ということになるかもしれない。

豚が先か、トランプが先か。

どっちも豚でしょ、という心ない声がネット上に溢れる光景が目に浮かばないでもない。

 

参考

中国、豚肉高騰で物価上昇 8月2.8% :日本経済新聞

・井波律子訳『三国志演義一