中国杭州市にある西湖(せいこ)(筆者撮影)
中国語の中には方言がたくさん
私たち日本人が一般に「中国語」と呼んでいるもの。実はその中には多数の方言が含まれています。
例えば、北京語、上海語、広東語、福建語など。これらは、方言とはいっても、それぞれがほぼ外国語と言ってもよいほど、お互いに違いがあります。ですので北京語の話者が、上海語を聞いてもほとんど理解ができません。
しかし、それでは中国人同士の意思疎通に問題が生じてしまいます。そこで中国では共通語として「普通話(ふつうわ)」というものが、定められました。私たち日本人が学ぶのは、この「普通話」になります。
このあたりの中国の言語事情について詳しく知りたい方は以下の図書をご参照ください。
普通話は、中国の共通語ですから、基本的にどの地域でも通じます。
ほとんどの中国人は、この普通話を通して教育を受けます。つまり、多くの中国人は、同郷の者同士では方言を、そうでない場合には普通話を、という風にうまく使いわけて生活をしているのです。こういうのは日本人にはちょっと想像しにくいことですね。
中国では方言差が激しいと聞くと、「私たちが日本で習う「中国語」はちゃんと中国で通じるの?」と心配になるかもしれません。大丈夫、通じます。
中国語は難しい?
難しい質問です。ただ個人的な感想を言えば、「発音はかなり難しい、でもそれ以外は簡単」であると思います。
中国語の発音の難しさ
中国語には、声調(せいちょう)という四つの音の上がり下がりが存在します。これをきっちり習得しない限り、使える中国語にはなりません。
中国語の学習では、この声調を核とした発音が非常に重要な位置を占めます。例えば、英語の場合、少々日本語的な発音でも通じることも多いですね。
しかし中国語ではそうはいきません。中国語のテキストに書かれたカタカナのルビをそのまま読み上げても、まず中国人には通じません。中国語は「発音が命」なのです。
中国語教育で有名な相原茂さんも口酸っぱく述べられています。
中国語 発音良ければ 半ばよし
中国語の文法の易しさ
一方、発音の難しさとは裏腹に、文法は、英語、フランス語、スペイン語といった欧米言語に比べてかなり簡単。
例えば、英語。「go」という動詞は、時制によって「go→went→gone」というふうに単語自体が変化します。あるいは、主語が「He」や「She」であれば、「三単元のs」というものを動詞に付加する必要がありました。
しかし、中国語にはこういう「単語自体が変化をする」ということがありません。この点が、ものすごく楽に感じられるはずです。
「go→went→gone」といった活用規則を苦労して暗記する必要がないのです。
文法のテキストに関しては、次の二冊を用意しましょう。
「1.」は、日本の中国語教育の権威、相原茂さんによる文法書。定番テキストで、かなりの人気を誇っています。
サイズはやや大きめですが、中身は非常に見やすく構成されており、読んでいても疲れにくい。あたし硬いのいや〜んという方には文句なしの一冊でしょう。
「2.」も必読。「2.」は、「1.」のような入門書では網羅しきれない、文法表現の細かなニュアンスの違いなど、学ぶことができる。中身は一見、字ばかりで理解しにくそうな印象を持つかもしれませんが、一読すればそのわかりやすさと内容の濃さに驚かされるでしょう。読んで「そういうことだったのか!」と膝を打つことも多い良書。目次をいくつか引用しておきます。
5.「仕事をする」は"做工作"ではない
6.「行く」の"走"と"去"の違い
7. "见面他"はどうしていけないのか
8.「・・・と思う」は"想"だけではない
郭春貴『誤用から学ぶ中国語ー基礎から応用まで』
「1.」と「2.」は、どちらか一つという関係ではなく、内容的には相互補完的な関係に近いです。ぜひとも二冊揃えたいところです。
漢字習得の易しさ
中国語では、ご存知のように漢字が使われます。このことは日本人にとって大きな特権になります。なぜなら、中国語と日本語には共通する漢字が山ほどあるからです。
例えば、次の文章を見てください。中国語の文章です。
当今世界,弱肉强食,最怕失去的是骨气。
どうですか?見慣れた漢字がいくつも含まれていませんか?あるいは意味もおぼろげながら理解できるという人もいるかもしれません。
日本語に訳すと、「今の世界は、弱肉強食。最も恐るるべきは、気骨を失うことだ」となります。
中国経済の中枢、上海の外灘(ワイタン)
この、漢字が理解できることのありがたみは、非漢字圏の人たちのことを考えてみればすぐに理解できます。
例えば、アメリカ人が中国語を習う場合。この場合、彼らはまず、基本的な漢字の書き方から学ばなくてはいけません。
日本人が小学校の時から長い月日をかけてやってきたことを、一から始めるのです。「山」という字を何度もノートに書き写したり、「はねる」「はねない」といったことも一つ一つ覚えていく。漢字というものに慣れていく必要があるんですね。
一方、日本人は、日本で義務教育を受けたというだけで、すでに中国語の勉強がかなり進んでいるようなもの。こんなアドバンテージを持っているのは世界でも日本人だけです(韓国はやや例外あり)。
どうでしょうか。これが最初に述べた、「発音はかなり難しい、でもそれ以外は簡単」の中身になります。
世界における中国語の存在感
中国というのは、人口約13億人の大国。これは日本の約10倍、あの世界の超大国アメリカの約4倍の規模です。さらに例を挙げれば、韓国の26倍、シンガポールの260倍ですね。文字通りケタ違いに人口が多い国。
それほどの多くの人口を抱える大国ですから、その言語の存在感も圧倒的です。次のデータを見てください。
(Wikipedia「インターネットにおける言語の使用」より)
このデータでは見ての通り、インターネット空間で、各言語がそれぞれどれだけ使用されているか、という、その割合が示されています。
「全インターネット人口に対する割合」の項目では、全体の中で、英語と中国語のシェアの大きさが、ずば抜けていることが見て取れます。中国語は、3位のスペイン以下を大きく引き離し、事実上の世界の共通語である英語と肩を並べる存在感を示しています。しかも、中国におけるインターネットの普及率が約50%の時点でこれですから、そのポテンシャルは相当なものと言えます。
ただ、あえて中国語の弱みを挙げるとすれば、話者の大部分が中国という一国に集中していることですね。この点は、世界各地に広く話者が分布する英語に完敗します。
中国語の使い道
「中国語は金になるんか?」という点も、詳しく知りたいところ。ここでは、どんなフィールドで中国語が活かせるのか、それを見ていきます。中国語でおまんまは食えるのでしょうか。
桂林市のとあるお店にて
商社における需要
と言いつつも、正直に言って私は商社の内情については詳しくありません。そこで、商社のことは商社マンに、ということで、ネット上から情報を取り寄せます。商社における中国語の地位はどれほどのものなのか?
以下は「商社日記」という現役商社マンによるブログからの引用です。
役に立ち、評価される順序としては日本語はおいといて、
1.英語
2.中国語
3.スペイン語
4.ポルトガル語
5.フランス語
6.ロシア語って感じかとおもいます。それ以下は評価ゼロ。
おおむね、上に載せたインターネット空間の言語シェアのランキングと一致していますね。ポルトガル語が意外って思われるかもしれませんが、ポルトガル語というのはポルトガルだけでなく、ブラジルの公用語でもあります。そしてブラジルというのは人口約2億人という世界でもかなりの人口規模を持つ国です(ちなみにポルトガルは1千万人)。
商社日記の筆者は続けます。
まずは中国。この国の英語の伝わらなさは日本に並びます。
香港、上海はおいといてあとはほとんど壊滅です。
中国が好きなら迷わず英語と中国語を身につけましょう。
你好言ってれば活躍の場は無限にあります。(いや、あるように見えます。今のところは。)
商社日記さんもおっしゃるように、中国では英語があまり通じません。簡単な英単語さえ理解されないことも、珍しくありません。英語さえできれば、世界のどこに行っても何とかなる、という英語万能主義が必ずしも正しくはないことが、中国へ行くと理解できます。欧米中心思考を脱し、視野が広がることも、中国と関わることのメリットですね。
商社、というと最近では、伊藤忠商事が、中国語人材の養成に大きな投資をすることを発表しました。
伊藤忠商事は中国語を話せる人材を2017年度末までに現在比約3倍の1000人に増員する。従来から実施している語学研修などの受講者数増員に加え、新たに社員が自主的に学べるオンライン学習環境も構築する。投資額は年間数億円規模とみられる。
中国語人材の価値の高まりを示す、良い例です。
観光産業における需要
茶芸の訓練中(成都市)
中国語人材は、貿易業だけでなく 、日本国内の観光業においても求められます。訪日外国人に対応するためですね。
特に最近(現在2015年12月)では、安倍政権のアベノミクスによる円安効果、また外国人に対する観光ビザの発給要件の緩和などにより、訪日外国人は急増しています。
次のデータを見てください。
(訪日外国人旅行者の国・地域別の消費額と構成比 観光庁)
各国の訪日旅行者が、日本でどれだけの消費をしているか、ということを示しています。消費額の大きさは、1位が中国、2位が台湾、そして3位は香港。中国語圏で全体の60%から70%を占めています。小売、宿泊、運送等、日本の観光産業にとって、中国語圏からの人々が、得意先である、と言っていいかもしれません。
この訪日観光における「中華独占」は、今後もますます進む可能性が高いです。なぜなら、中華圏、特に中国には伸びしろがまだかなり残っているからです。
経済的な豊かさの指標となる一人当たりGDPについて、「日本」「中国」「韓国」で比較をしてみます。
そうすると、次のようなことがわかります。
・中国の一人当たりGDPは、日本の約20%
・中国の一人当たりGDPは、韓国の約33%
・韓国の一人当たりGDPは、日本の約77%
(一人当たりGDPについてはここを参照しました)
重要なポイントは、中国の一人当たりGDPがまだ韓国の3分の1であるということ。にもかかわらず、上のデータで見たように、訪日旅行の消費額ですでに中国人が、韓国人を圧倒している。(中国人の消費額が多いのは、単に中国人の消費意欲が高いということもあります。しかし日本に旅行に来る人数においても中国人はすでに韓国人を上まっています。)
中国の一人当たりGDPがまだ韓国の3分の1である現時点でこの状況。ということは、それが今の韓国並みに豊かになった場合、言い換えれば今の3倍になった場合、どうなるか?
訪日外国人=中国人
という状況になる可能性が高いです。
現時点でそう考えている人も多いとは思いますが。
当然、観光産業に属する企業は、好むと好まざるとに関わらず、中国語を解する人材の募集を増やすことになると思います。
中国語通訳案内士について
こうした訪日外国人の「中華独占」にも関わらず、彼らの日本案内役となる通訳案内士は、言語別では英語に集中しています。次の観光庁発表のデータを見てください。
圧倒的に英語に受験者が集中していることがわかります。ただこれだけでは、需要と供給の面でどういう状況にあるのか、判断できません。なぜなら、英語圏の旅行者は日本に住む日本人の通訳案内士を需要する傾向があるのに対し、中国人は本国からガイドを連れてやって来る傾向があるからです。
しかし通訳案内士自体が明らかに不足している地域が多いのもまた事実。特に地方でそうです。経済ジャーナリストの片山修氏も、こう書かれています。
(通訳案内士は・・・)まだまだ、数は足りていません。
一例をあげれば、毎年人口の3倍以上にあたる30万人もの外国人観光客が訪れる、岐阜県高山市です。先日、高山市を訪れる機会がありましたが、ホテルも、レストランも、温泉も、小さな路地まで、聞きしに勝る外国人の多さ。まさに外国人だらけでしたね。
その高山市は、しかし、通訳案内士が、なんと、英語3人、中国語3人、合わせて6人しかいないといいます。30万人に対して6人では、さすがに厳しいといわざるを得ません。
サイト「BLOGOS」より
※ カッコ内は当ブログ補足。
また通訳案内士資格は、観光案内だけが使い道ではありません。訪日客の対応を必要とする、小売店、ホテル、飲食店などは、外国語で対応のできる人材を必要とします。そうした企業等にアピールしたい場合、語学力と日本に関する知識の証明として通訳案内士という資格は圧倒的な役割を果たすでしょう。
ちなみに通訳案内士(観光案内)の一般的な報酬は、日当で2万円〜3万円ほどになるようです。
通訳翻訳の需要
通訳の需要
中国の経済的発展に伴い、通訳需要は確実に増加しています。というより、通訳というのは、どの言語であれ基本的に人が足りていないです。外国語で簡単な会話ができる人はたくさんいますが、きちんとした良質な通訳をできる人材というのは、なかなかいるものではありません。
それは通訳の報酬の高さが示しています。通訳料金を検索してみてください。かなりの高さに驚かれると思います。一般的には、専門性のない一般的な通訳で半日3万円前後。法律、医療、金融など、専門的な内容のものでは、半日5、6万円ほどになります。
通訳会社を通して仕事を受注した場合、この額がそのまま通訳者に入るわけではありません。しかし、顧客と直接契約した場合はこれだけの報酬になります。年収ではどれくらいのものになるかは、「年収シェア」というサイトが参考になります。一般の人が自分の年収情報を投稿しているサイトです。通訳が、かなり平均年収の高い職業の部類に入ることがわかる思います。
中国杭州の寺院
翻訳の需要
通訳の需要があるなら、もちろん翻訳の需要もあります。しかしここでいう「翻訳」とは、一般の人が考えるような小説や本などの翻訳ではありません。実は、翻訳市場の大部分は、企業や官公庁から発生する各種の書類やレポート、契約書などの翻訳で成り立っています。そしてこのタイプの翻訳のことを実務翻訳と言います。
実務翻訳では、通訳ほど稼げるわけではありませんが、比較的自由な働き方ができる点が魅力です。フリーランスとして、翻訳会社に登録し、そこから仕事を受注すれば、ネット環境さえあれば、どこでも仕事をすることができます。いわゆるノマドですね。現に、翻訳でお金を稼ぎながら旅行をしている人も中にはいます。
でも、実務翻訳は、語学力だけではダメです。金融や医療といった専門知識を有すること、良い日本語の文章が書けること等、語学プラスアルファが必要になります。ただし、医療や金融といっても、それらの知識を身につけるために大学に入り直したりする必要はありません。翻訳する文章を理解するための基本的な知識があればよいのです。
どれくらい稼げるか、という点に関しては、通訳と同じく「年収シェア」を参考にするとよいです。
「中国語がペラペラになるには?」
中国蘇州市
中国語は、発音が命。
学び始めに、間違った発音を身に付けてしまうと、
そのまま中国語の学習がどんどん間違った方向に流れて行きます。
それを後になって矯正するのは大変です。
発音は癖になってしまうからです。
だから、始めが一番肝心。
中国人に通じる発音を習得するには、実際の中国人と会話で伝わるまで何度も練習することです。今は【italki】のようなインターネットを利用した便利な外国語学習サービスがあるので、留学せずともネィティブの方との実践的な会話を学ぶことができます。
しゃべれないからといって、実践的な会話に飛び込まないと、いつまでたっても会話力の飛躍は期待できません。恥ずかしがらず、勇気を持って、中国語の現場に飛び込むことが成長の秘訣です。
だらだらと長い記事でしたが、読んでいたただきありがとうございました。
またいろいろ役に立つ情報を頑張って提供していきたいと思います。
それではみなさん、良い中国語ライフを!
再见(さようなら)!